2010年5月17日月曜日

昭和の日用品、収集に励む「思い出まで捨てないで」 仙台

 昭和の暮らしを支えた日用品を集めている男性がいる。骨董(こっとう)品ではなく、誰もが手にし、使った身近な物がテーマ。捨てられそうになった品をもらい受け、展示館を開く準備をしている。(報道部?鈴木美智代)

 太白区長町で不動産会社「杜リゾート」を営む山家雪雄さん(60)=泉区=。引っ越しする顧客や知人から不用品を譲り受けてい FF11
る。
 山家さんが不用品の山の中から目を輝かせて手にしたのは、古い木製のそろばんだった。裏表ひっくり返し、満足げに見つめる。
 「ほら、そろばんですよ」と言ってこちらに差し出す。下段に5玉通っており、戦前の物のようだ。大層な品には見えないが、山家さんにとってはお宝だ。
 中には、レンズを交換できる初の国産カメラとして195
8年に発売された「オリンパスエース」や、違い棚が付いた立派な茶だんすなど愛好家が喜びそうな品もある。だが、「誰も集めないような物がいい」とあまり関心を示さない。

 これまで集めた品は約3000点。会社の倉庫などに保管している。らせん状にふたを回して開ける「宝焼酎」の瓶や手動のバリカン、黒電話。特に昭和30年代以降、どこにで rmt
もあった製品を大切にしている。
 宮城県蔵王町の出身。子どものころ父を亡くし、4人の兄弟とともに母に育てられた。中学を出て、通信制の高校と夜間の法律専門学校に10年間通った。
 古い物はもともと好きで、切手やカメラなどを集めていた。日用品に的を広げたのは5年前からだ。
 知人の倉庫を片付けた時のこと。「サントリーオールド」
の木箱がほこりまみれで転がっていた。学生時代、高くて手が出なかった酒だった。
 「法律事務所の事務員だった40歳のころ、海外旅行へ行く時に免税店で安く手に入れ、機内で初めて口にした。まろやかで刺激があってね」。青春時代が一瞬でよみがえり、木箱は宝物になった。

 一方、仕事で不用品の処分を頼まれることも多い山家さんは、思い
出の品がどんどん捨てられていく現実に気付いた。
 「明治や大正の品々は骨董品として扱われる。でも昭和期に大量生産された生活雑貨には価値を置かれない。貴重でないからとみんなが捨ててしまったら、物も思い出も消えてしまう」。意識して「何でもない物」を集め始めた。
 05年に、それまで集めた品で展示会を開いたことがある。車いすの高齢
の女性がミシンを前にして涙を流していた。
 「子どもに服を縫ってやったことでも思い出したのだろうか」。理由は分からないが、「集めた品々は他人の心にも訴えかける力がある」と確信した。常設館の開設を決めた。
 どんな物にも背後には人がいて、暮らしがある。人はその物を通じて家族と過ごした記憶や努力した若い日を思い出し、再び前を向く
気力に変える。山家さんはそう考えている。
 「世の中全体が今、消沈している。昔の生活を思い起こさせる懐かしい品を見て、お年寄りや自分と同年代の中高年、地域にも元気になってほしい」
 展示館は会社設立20周年になる来年、長町に設けるつもりだ。多くの人や物から教わった感謝の気持ちを伝えるため「ありがとう美術館」と名付ける。


引用元:ルーセントハート(Lucent Heart) 総合サイト

2010年5月1日土曜日